ねろちゃんとAcer社が語る成長の物語—— PR配信とesportsの深層へ

企業と配信者が共に盛り上げるPR配信の価値

──谷さんは日本エイサーの中で、今までどういったお仕事をされているのでしょうか?

谷 私は日本エイサーという、台湾に本社があるPCとかモニターとかの企画・製造・販売しているグローバルカンパニーの日本支社に、2016年5月から所属しています。

仕事としてはマーケティングですね。私たちは「プレデター」というゲーミングブランドを展開していて、そのブランディングを意識した取り組みを幅広く担当しているのが、今の僕のポジションかなと思っています。

業務では、配信者というよりはesports、それこそ当時DMM GAMESさんが開催されていた『PUBG』の公式大会「PWI」に2019年から公式スポンサーを務めました。

それを機に「プレデターリーグ」という自社の大会を2019年から年に1回開催したり、最近だと2024年から『VALORANT』の「VCT Pacific」という大会のスポンサーを務めたりするなかで、2023年から少しずつ配信者の方とお仕事をしてるというのが、現在の状況になります。


ねろちゃん 僕は今でこそ専業で配信をしていますが、配信者になる前はRascal Jesterというプロゲーミングチームのマネージャーや、PCブランドのGALLERIAで仕事をしていて、その頃から谷さんにお世話になっていました。

──旧知の仲ということですね。谷さんは、配信者とのPR案件を手掛けるようになった理由などは覚えていらっしゃいますか?


 他の企業の方がどう考えてらっしゃるかはわからないんですけど、我々がいわゆる配信者と呼ばれる方とお仕事をしようとしたきっかけは、ブランドや製品についてその配信者の言葉で語っていただけるところを魅力に感じたからですね。

例えばバナーを制作してデジタル上で配信してインプレッションを稼ぐような広告は、今アドテックの発達で様々なユーザーを追いかけていけるんです。けど、そうした無機質なバナーに対して、配信にはその配信者の人となりが感じられて、その人を通じて自分たちのブランドを表現していただけるという決定的な違いがある。


ねろちゃん 配信者からすると、PR配信のようなご依頼は「世の中にはこういうものもあるんだ」と新しい物事を知る機会でもあります。ただ、谷さんのおっしゃるような理由で「なんで僕を選んだのか」が見えてこないとご依頼はお断りすることになりますね。「僕のこと知らずに問い合わせメールをとりあえず送ったんだな」みたいな。


 仕事をお願いする我々企業側と、配信していただける配信者様のミスマッチが起きた配信は、おそらく企業も配信者の方も両方が不幸だと思うんですよ。

例えば、PCのことが全くわからない配信者の方に、PCのPR配信をお願いしたら、その方のリスナーの数がものすごく多かったとしても、見てる側からしたら「やらされてるんだろうな」と思うはずだし、言葉もふわふわと浮いたものになってしまう。


ねろちゃん リスナーだってそのPCについて知らないときは「他のPCと何が違うんですか」とコメントする。そのとき僕自身がその魅力をうまく伝えられないと「家電量販店のPCでいいか」となってしまいますよね。


 その企業のブランドや方向性、思っていることに賛同いただけるか、理解があるか。そういう人と一緒にお仕事しないと、配信自体が全く意味をなさないものになっちゃうんじゃないかなって僕は思います。

自分が思うに、配信をする前に、お互いを理解するフェーズを設けるのが大事なポイントになると思いますね。


──谷さんはPR案件を担当される際に、どういうことを意識されていらっしゃるのでしょうか。

 例えばPR配信の場合は、我々もその配信者様の配信のコミュニティの中の一部分になれるかどうかですね。

僕らは必ず、事前にSNSなどで「何月何日にこの配信者様と一緒にお仕事をします。ぜひ楽しんでください」という告知を出します。

配信者様が配信される際は当然全てライブで見るし、配信のチャット欄に自分たちが公式としてその配信をみんなと一緒に楽しんでいる様子を晒していく。

これはesportsでも同じです。プレデターリーグは自分たちが主催する大会なので自分たちが盛り上げるのは当たり前なんですけど、協賛している大会でも同じなんです。

普通、協賛とは、大会でCMが流れます、ロゴが掲出されます、実況解説の方から言及されます、というのが一般的な流れです。

僕らの場合は、配信も大会も、楽しみにしてる視聴者の方、選手の方と積極的に関わりを持たせていただき、ぐるっと一緒に盛り上げていくのをすごく大事にしてます。


ねろちゃん 僕も以前、ボタン一つにいろいろな動作を指定できるデバイスを紹介したことがあります。そのとき「僕はITの仕事をしてるんですけど、これってマクロを組めばこういう動作もできるよね」みたいなコメントに「できるかもしんないっすね」と反応していたら、担当者の方が「できます!」とコメントをしてくれて。すごい面白い環境が出来上がったなと思いましたね。


 配信終わりにリスナーの方の「お疲れ様でした」とか「ありがとうございました」というコメントが流れるとき、僕たちに対してメンションを付けてお礼を言ってくださる方もいらっしゃる。それが見られたときは、コミュニティの中に自分たちを理解しようとしてくれる人が増えたことを感じて嬉しいですね。

企業が直面する「数字」のジレンマ

──お話されているような形式のPRを配信で見かけることも多くなりました。現状、PR配信にはどのような課題があるのでしょう?

 あくまで自分が感じていることですが、配信というコンテンツが認知を得てもう5年とか6年とか。既に数字を持ってらっしゃる配信者の方たちのグループに取って代わる、新しい配信者の方が出てきにくい時代に入っているのかなと思っています。

数字を持ってらっしゃる方には自分たちのスタイルがあるし、今はそれを変えることなくずっと配信をされている。当然、彼らもおそらく昔はいろいろな工夫もされたと思うし、これは決して非難ではないんです。

けれどだからこそ、その人たちに対して新しく出てくる人たちがどういう配信をつくっていくのかはすごく重要になってきてる。そういう人たちが出てきて初めて配信の世界も成長していくのかなと思ってますね。

ねろちゃん 変えることなく貫きたいスタイルというのは僕にもあって、それを崩してまで「新しい何かを」と思い切るには“勢い”が必要なんですよね。それが新しい風なのか、新しいジャンルのゲームや配信スタイルなのか、僕にはまだわからないんです。

けど確かに、マンネリに関しては、視聴者の反応を見ても思うことはあるんですよ。

バラエティー番組を見てると台本じゃないですけど、始まりはこんな感じでアイスブレイクして、真ん中に大きなネタを持ってきて、最後に新しく始まるドラマや映画のPRして終わりみたいな流れがあるじゃないですか。

配信でも同じように、視聴者もその流れをもう何となくわかってきちゃっている。そこを崩す何かがあったら、見る側もそうだし配信する側にとっても、次も見てみたいという気持ちがまた再燃するんじゃないかな。ただそれはめちゃくちゃ難しいです。なかなかやろうと思ってできることじゃないなとは思ってますね。

──そうした固定化した状況は、広報担当者から見てどんな難しさがあるのでしょうか。

 我々企業の判断材料の根幹には“数字”があります。つまり配信の場合、企業担当者は「その人の配信ってどれぐらいの人が見てんの?」という視点を抜きには考えられないと思うんですよ。

ただし、多くの視聴者の方が見ている配信者ほど固定化して、お仕事をお願いするフィーも1回の配信で1000万円を余裕で越えるような規模でどんどん高くなっている。そうなると簡単にはお願いできないというのが一般論です。

ただ、我々はどれぐらい熱量のある方がその配信を見てるのかも重視しています。集中せずに、ながらで見ている人がどれくらいいる配信なのかではなく、その人の配信が好きで好きでたまらないという熱量のある人がその人の視聴者の中にどれぐらいいらっしゃるのか。

そういう配信者の方が自分たちのご相談相手としては合っている。自分たちの商材をたくさんの方に知ってもらいたいというよりも、コアな人を一緒につくっていただける配信者の方や熱量を自分たちのブランドに取り入れたいという思いがありますから。ただ、そういう配信者の方を探すのは、一般的なPRの進行のなかでは難しいですね。


──お話をうかがっていると、数字が前提になる一般的なPRの企画立案では見つけるのは難しいとはいえ、谷さんが求めるような条件を満たす配信者の方はたくさんいらっしゃるようにも思えてきますね。


ねろちゃん おそらくその通りですね。熱量のあるファンを獲得できそうだなと感じる配信者っていっぱいいますよ。

ただ、それってその人が伸びることを望んでるかどうかもあるんです。視聴者数を伸ばしたいから配信をやっているのか。伸びたいと思っているとしても、昨日まで10人だった視聴者が急速に100人、1000人になってほしいのかと聞かれると考え込んでしまう人もいるわけです。

自分がやりたいことがもう明確に決まっていて、それに対して反応をくれる人や好きって言ってくれる人に向けて発信したいという配信者はいっぱいいると思いますよ。個人的にはそういう配信者の方が好きですね。

業界の未来には、企業と配信者の長期的な関係構築が欠かせない

──これまでお話していただいた配信シーン全体ついて、お2人は今後どうなっていくと予想していて、どうなっていくのが良いという希望を持たれていらっしゃいますか?


 我々エイサーは、企業として配信のプログラムをそんなに実施している方ではないという前提ではあるんですが、配信の世界に参入される企業さんがもっと増えてほしいですね。

ただ、参入のためには配信者のリサーチはもちろん、自分たちのSNSアカウントを活用するためのコンテンツも必要になってきます。

みんながみんなそういうことはできないのは理解しつつも、もう少し配信という文化をバックアップする、一緒にやっていこうという企業さんがもっと増えたらいいなと思います。

何となく配信でPRをやってみて、確かに何千人何万人の人に見てもらえたけど結局何も残らない。そんな配信に溢れた世界は、僕らとしてもあまり望ましくない。

自分たちも頑張らないといけないんですけど、ある程度お互いの理解ができた方や一緒にお仕事を始めた方と、ロングタームで何かお仕事をできるような世界になればいいなって思いますね。

逆にそういうことができるようになれば、この業界に参入しようという企業がもっともっと増えていくんじゃないかな。

ねろちゃん 僕自身としては、自分の根幹にある部分──好きだと思うものはしっかりと大事にしていく姿勢を変えたくないと思っています。

例えば今、巷で流行っている『ロケットリーグ』というゲームを、僕は8、9年くらいプレイしてるんですよ。もうずっと昔から「このゲーム、神ゲーです」ってずっと言い続けてやっと今、花が咲いた。けど今流行っていることが重要ではなく、2年後、3年後も「本当に好きで好きでたまらなくて……」というプレイヤーがたくさん残ってほしいなとも思います。そういう世界であってほしい。

始まりは「流行ってるからやってみよう」でもちろん良いんですけど、基本的にはこれからの配信シーンも「好きだからゲームをやっている」という文化、あり方であってほしいなとは思ってます。

配信業界がどうなっていくかに関しては、今第一線で配信されてるメジャー級の方々も後輩を育てたくないわけではないんです。むしろめっちゃ目をかけてくれている。けど結局、介入しすぎると、今度は相手の人生に影響を与えすぎてしまう。だから控えてくれている人もいっぱいいらっしゃるんです。

そこに甘んじないように、自分がいいと思うことが数字に繋がるのが一番ベストだと思うし、続けていけるような世界づくりができたら……。10年後、僕が配信をやり続けていたとしても、上手いこと食っていけるような世界になってくれればいいなと。

もちろん努力ありきの話ですけど、配信をすることや見ることの敷居が下がる世界になるといいなと思います。自分としてはあんまり見られていることは考えず今やりたいことをやっていきたいですね。

 配信を見る敷居が下がるというのは確かにそうだよね。

配信のジャンルも、ゲームだけじゃなくて料理とか、ねろちゃんがやっているようなキャンプのようなアウトドア系の配信とか、コロナ禍以降はすごく広がった。

その中で、動画の視聴はしていたけど、今まで配信を見たことがなかった層が増えていく可能性はまだまだあると思います。配信されてる方も我々企業も、どこからお金を頂戴するのか、慈善事業じゃないから最後はそこに行きつく。効果がないものに対して投資は続けられないし、配信されてる方も配信者で食べていこう、仕事にしよう、配信者のプロになろうと決めたら、最終的にその配信からお金を得られないといけない。

それが案件のお金でもいいし、自分の配信から出てくるお金でもいい。でも結局ご飯食べていけなかったら、いくら「自分は配信を頑張る」って最初の何年間かは続けられても、永遠には続けられない。配信されてる方も僕らも、最終的には、どうやって自分たちが投資している対象からリターンをいただくのかというところは避けて通れない。

直接的・間接的問わず、結局は自分たちのところに行き着くからこそ、いろいろなことを考えて工夫をしながら、毎日毎日努力し続ける意味がある。だからこそ配信シーン全体の視聴者のパイは多い方がいいと思いますよね。

配信シーンの変化とチャレンジャーとしての揺るぎない信念


──ねろちゃんはこれまでお話していた配信の現状に対して、何か打つべき一手のようなアイデアは浮かびますか?


ねろちゃん いやー……何か一手というより、今まであった良いものを絶やさないようにしたいと僕は思いますね。

例えば僕が谷さんと初めてお会いしたのは『PUBG』というゲームを通してでした。

『PUBG』が出たときってすごかったんですよ。PCがもうめちゃくちゃ売れた。本当にゲーム業界、PC業界を激震させるゲームだったんです。

そういうものが元々あったし、今後出てくるかもしれない。まず、そんな良いものがあったことを絶やさないようにしていきたい。そのときの気持ちを忘れずに、また同じような現象に出会ったときに、また燃えられるようなモチベーションを保っていたいなと思ってますね。

……何か対談の感想みたいになっちゃうんですけど、谷さんが目指しているところは相変わらずesportsなんだなと思いました。


 かつてRascal Jesterでマネージャーされていた2020年2月頃に、僕もねろちゃんとやり取りさせていただいてたんです。当時は現場でお会いしたり「プレデターリーグ 2020」でRJがフィリピンへ行く2週間前、コロナの流行で開催が延期されて打ち合わせをしたのが印象的です。

今esportsとおっしゃったんですけど、まさにそこは大事にしてるというか、なんていうのかな……常にチャレンジャーなんですよね。やっぱりそれは大事なことなのだと自分でも思っています。


ねろちゃん そもそもesportsなんて、世間的に見たら本当にハイリスクローリターンなんですよ。でも好きだからやるというのが僕の中にある。

美化してるだけなんですけど、谷さんもそういう方だなというのは、もう昔からずっと思っていたので、今も変わっていなくてすごい嬉しかったというか。


 変わってない(笑)。


ねろちゃん みんな変わるじゃないですか。これだけ配信業界が色づいてPRが増えた結果、変わっちゃう人がもういっぱいいる。そんな中でも5年、6年越しでこんなに変わらずにお話できてよかったなと。


 多分そういう世界を知ってらっしゃるからこそ、ねろちゃんも調子に乗らないよね。


ねろちゃん そうっすね(笑)。


 自分が元々どこから来たのかという軸を持たれてる方はやっぱり強い。信念や志があったり、どこまでいっても頑張り続けないといけないことや、今ある世界が当たり前じゃないことを知っている。

視聴してくれてる方に対する感謝が持てなくなっちゃうと、深いファンの方というのはできないんじゃないかな。お金を稼ごうと思っている方ほど、そういう意味を理解しないと、どんなにイケてる商材のPRをしても、どんなにイケてるゲームのプレイをしても、長く応援してくれる人はできないんじゃないかなと思うので、頑張ってほしいな。僕らも頑張ろう、という感じですかね。

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